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東京地方裁判所 昭和53年(行ウ)55号 判決 1980年8月08日

原告 社会福祉法人恩賜財団済生会 外一名

被告 中央労働委員会

補助参加人 全済生会労働組合 外一名

主文

一  原告社会福祉法人恩賜財団済生会支部東京都済生会中央病院の訴を却下する。

二  原告社会福祉法人恩賜財団済生会の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、参加によつて生じた分を含めて原告社会福祉法人恩賜財団済生会の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

1  被告が中労委昭和五二年(不再)第五八号不当労働行為救済命令再審査申立事件について発した昭和五三年三月一五日付命令は、これを取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告及び補助参加人ら

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  原告ら

1  補助参加人らは、東京都地方労働委員会(以下「都労委」という。)に対し、原告らを被申立人として不当労働行為救済の申立をし、同委員会は、昭和五二年八月二日付で別紙二のとおりの命令(以下「初審命令」という。)を発した。原告らは、初審命令を不服として被告に対して再審査の申立をしたところ、被告は、昭和五三年三月一五日付で別紙一のとおりの命令(以下「本件命令」という。)を発し、右命令書は、同年四月二四日、原告らに交付された。

2  しかし、本件命令は、以下のとおり、事実認定を誤り、法解釈を誤つたばかりか、裁量権の範囲を逸脱する命令であるから、取消されるべきである。

(一) 原告病院の被申立人適格

本件命令が維持した初審命令は、原告社会福祉法人恩賜財団済生会支部東京都済生会中央病院(以下「原告病院」という。)に独立の被申立人適格を認めているが、原告病院は、原告社会福祉法人恩賜財団済生会(以下「原告済生会」という。)の下部組織たる東京都済生会の経営にかかる一施設にすぎないのであるから、救済命令における被申立人適格を有しないのであつて、右の点を看過して発せられた本件命令は取消されるべきである。

(二) 二重命令

本件命令が維持した初審命令の主文第二項は、別紙二のとおり、原告ら双方に対してポスト・ノーテイスを命じているが、仮に原告病院が原告済生会の一支部たる東京都済生会の経営にかかる一施設以上の独立の事業体であるとしても、原告済生会と原告病院の関係は、いわば同一法人における本社と事業所との関係であるから、右命令は同一法人に対する二重命令であり、少なくともその一方に対する命令は取消を免れない。

(三) 不当労働行為の不存在

(1) 原告病院に対する補助参加人全済生会労働組合中央病院支部(以下「支部組合」という。)からの昭和五一年の一時金要求は、夏期一時金については、「二・五ケ月プラス二万円」、年末一時金については、「三・五ケ月プラス二万円」という方式(以下「倍率方式」という。)でなされたところ、本件命令は、倍率方式をもつてなされた右一時金要求の算定の基礎となる昭和五一年の新賃金についての合意が成立していなくとも、支部組合において、妥結の月から新賃金を実施するとの条項(以下「妥結月実施条項」という。)を除いて、原告病院の提示した賃金額そのものについては受諾回答をしているから、これによつて新賃金額が確定し、これを右一時金算定の基礎となしえたのにもかかわらず、右算定をしなかつたのは不当であるとする。

しかしながら、原告病院は、昭和五一年の賃金引上げの交渉に際し、引上げの実施時期によつては引上額そのものも変動する可能性があるため、引上額と実施時期とを不可分一体のものとして提示したのであるから、これに対する受諾の意思表示も右両者について不可分一体としてなされなければ、右賃金引上げの合意は成立しないのであつて、右新賃金は未だ確定していない。したがつて、右新賃金を基礎として倍率方式をもつて要求されていた右一時金の算定も不能であり、右一時金について団体交渉を行うことはできなかつた。

それにもかかわらず、本件命令は、右一時金の算定が可能であり、右一時金について団体交渉をなしえたことを前提としたうえ、支部組合との間で右団体交渉が開かれず、支部組合員に対して各一時金が支払われなかつたことをもつて不当労働行為と認定しているのであるから、右は、事実の認定を誤り、ひいては判断を誤つたものである。

(2) また本件命令は、新賃金が未確定であつても本件各一時金問題は解決しえたとしている。これは、原告病院が昭和五二年の賃金引上げ交渉に際して、支部組合に提案した方式(倍率方式によらず、直接に具体的な支給金額そのものを表示する方式。以下「実額方式」という。)の採用を言うものと思われる。しかしながら、原告病院が実額方式を考案したのは昭和五二年であつて、本件で対象となつている昭和五一年の各一時金交渉の時には未考案のものであつたのだから、実額方式によつて本件各一時金が解決しえたとするのは誤りである。

(3) したがつて、本件命令は取消されるべきである。

(四) 救済利益の欠缺

(1) 補助参加人らが都労委に対して救済命令を申し立てたのは、昭和五二年四月一六日であるところ、原告病院は右申立に先立つ同月五日と一五日の二回に亘つて支部組合との間で右一時金問題について団体交渉を開き、支部組合に対して実額方式による要求方法を示唆提案し、その検討を促した。また、右申立後の同月二五日及び五月二日、原告病院は、その試算にかかる実額方式での回答案を協定書にまとめ、団体交渉の席で、これを支部組合に対して提示した。右回答案は、原告病院と訴外済生会中央病院労働組合(以下「病院組合」という。)との間で妥結した内容を、その支給額について倍率方式によらず、直接に具体的な支給金額をもつて表示しただけのものであり、支給対象者を支給日現在在職者とする条項(以下「支給日現在在職者条項」という。)をも含めて、実質的にすべて病院組合に提示し妥結したものと同一内容のものであつた。

(2) したがつて、支部組合による都労委への救済申立前であつても、実額方式での一時金要求をしていたならば右の交渉も進展しえたはずであり、また、右五月二日以降においては、原告病院の提示した実額方式による協定書に調印するならば、支部組合の組合員も、病院組合の組合員はじめ他の従業員と同一の条件で右各一時金の支給が受けられたばかりか、現在でも受けることができるのである。それにもかかわらず、支給日現在在職者条項に反対して、支部組合が右実額方式による具体的な支給金額についての交渉を拒んでいるため妥結に至らず、右各一時金が支払われないのである。支部組合は、自らの責任でかかる不利益を惹起せしめている以上、もはや救済の利益を欠くものであり、右判断を誤つた本件命令は取消されるべきである。

(五) 裁量権の濫用

(1) 労働委員会も一個の行政機関であるから、その裁量権の行使については、その目的を達成するために必要な最少限度にとどめるべきであり、いわゆる「比例原則」が適用になる。

(2) ところで、本件においては、原告病院が、支部組合の倍率方式による一時金要求は算定の基礎となる昭和五一年の新賃金が未確定であつて算定しえないから、まず右新賃金について妥結することが一時金の交渉の前提であると主張したのに対して、支部組合が、右新賃金は昭和五一年六月七日の受諾回答をもつて既に確定済であるとして、右一時金についてだけの交渉は固執したため、その前提条件で調整がつかず、団体交渉が開けなかつたものである。右に述べたような前提条件の調整がつかないために一時金の交渉ができない状態が、労使間の正常なバランスを欠くと認められたとしても、被告としては、たとえば、「使用者は賃金未確定との主張に固執して団交を引延してはならない。」等の原告病院をして支部組合との団体交渉を開くためにその前提となつた障害事由を取除くような命令をもつて右状態を是正しえたのにもかかわらず、右範囲を超え、未だ協定の締結もなされていない状態で、一時金の支払を命ずることは、もはや右是正目的達成のための必要な最少限度を超えるものであり、しかも使用者は協定という合意の媒介なしに財産的出捐を強制されることになるから、憲法第一九条及び第二九条第一項にも牴触することになる。したがつて、本件命令は、裁量権の濫用として取消されるべきものである。

3  よつて、原告らは本件命令の取消を求める。

二  被告

1  原告ら主張1の事実は認め、同2については争う。

2  本件命令は、労働組合法第二五条、第二七条及び労働委員会規則第五五条に基づき適法に発せられた行政処分であつて、処分の理由は別紙一の命令書の理由のとおりであり、被告の認定した事実及び判断に誤りはない。

三  補助参加人ら

1  原告ら主張1の事実は認め、同2については争う。

2  不当労働行為について

(一) 昭和五一年六月七日、支部組合は、原告病院に対し、同病院の賃金回答中、妥結月実施条項を除いてすべて受諾する旨及び一時金は右受諾額を算定基礎とするよう回答したから、右算定基礎は明確になつた。

(二) 昭和五一年の賃金引上げと一時金とは、右一時金の算定につき、便宜的に賃金額を基礎にする以外には何ら相関関係はない。仮に新賃金が未確定であつても、一時金について交渉したり、回答したりすることは十分に可能である。

(三) したがつて、原告病院が右新賃金の未確定を理由として本件一時金についての交渉を拒み、もつて支部組合の組合員に対して右一時金を支給しなかつたことは、不当労働行為である。

3  救済利益について

(一) 昭和五二年五月二日に原告病院が支部組合に対して提示した協定書には、支給日現在在職者条項が付されており、支部組合は、次の理由により右条項を受諾できないので、これと一体として提示された右実額方式による協定書に調印することができなかつたのである。

(二) 支部組合の組合員である小比類巻里子、小林渡、松島茂昌の三名は、昭和五一年の年末一時金の支給日から同五二年五月までの間に原告病院を退職したので、右五月の時点で支部組合が右支給日現在在職者条項を受諾したならば、右三名は右年末一時金の支給を受けられないおそれがあつた。

(三) 原告病院も、右事情を知りながら、支部組合らが救済申立をしたために、形式的に右の提案をしたのであり、もとより妥結に至らないことを見越してなされたものであるから、これによつて補助参加人らの救済の利益が失われるものではない。

第三証拠<省略>

理由

第一原告病院の訴訟当事者能力

本件記録によれば、原告病院は、東京都済生会の経営にかかる一施設であり、東京都済生会は、原告済生会の下部組織の一である支店たることが明らかである。ところで、支店は、法人組織の一部を構成するものにすぎず、法律上、独立の権利義務の主体とはなりえないものであつて、その支店の一部を構成するにすぎない施設もまた同様である。

したがつて、法律上、独立の権利義務の主体となりえない原告病院は、訴訟当事者能力を有しないから、原告病院の本件訴は不適法であり、これを却下すべきものである。

なお、本件命令において、原告病院も被申立人として表示され、命令の名宛人とされているが、その趣旨は後述のとおりに解され、右命令の名宛人とされているからといつて原告病院が訴訟当事者たりうるものではない。

第二原告済生会の請求について

一  原告主張1の事実については当事者間に争いがない。

二  原告主張2について

1  本件紛争の経過

成立に争いのない乙第三号証、第五号証、第七ないし第一六号証、第一八ないし第二二号証、第二四ないし第四九号証、第五一ないし第五四号証、第五九ないし第七六号証、第八一ないし第八四号証、第八六ないし第九三号証、第九五ないし第一一〇号証、第一一六号証、第一一八号証、第一一九号証、第一二四号証、第一三二号証(なお、第七一号証は第二六号証に、第七二号証は第二八号証に、第七三号証は第二九号証に、第七四号証は第三一号証に、第七五号証は第三三号証に、第七六号証は第三五号証に、第八一号証は第四四号証に、第八二号証は第四六号証に、第八三号証は第四七号証に、第八六号証は第五二号証に、第八八号証は第五三号証に、それぞれ同じ。)、原本の存在及び成立に争いのない丙第一〇ないし第一二号証、証人黒田幸男の証言、同金子有之の証言(一部)を総合すれば、次の事実を認めることができ、右認定に反する証人金子有之の供述部分は、採用し難い。

(一) 原告済生会は、医療施設等を設置して社会福祉事業を行うことを目的とする社会福祉法人であり、全国各地に支部(支店)を設けて事業経営を分掌させるとともに、右各支部の運営につき、企画、指導、連絡の任に当つている。社会福祉法人恩賜財団済生会支部東京都済生会中央病院(第二において、「中央病院」という。)は、原告済生会の一支部たる東京都済生会の経営にかかる一施設たる総合病院であり、同病院に勤務する従業員の賃金等を含む労働条件の交渉及び決定の権限を有していた。

(二) 支部組合は、中央病院及びその付属施設に勤務する従業員の一部で組織された労働組合であり、補助参加人全済生会労働組合は、支部組合を含め、原告済生会の全国各地の施設を単位とする従業員で組織された労働組合の連合体である。

なお、中央病院には、支部組合の外、同組合に所属しない従業員で組織された病院組合が併存している。

(三) 昭和五一年三月二二日、支部組合は、中央病院に対して同年度の賃金引上げ要求をなし、以後その交渉を続けていた。

他方、病院組合も中央病院と賃金引上げ交渉をしていたところ、四月二二日、中央病院は、同組合に対し、賃上額の回答を妥結月実施条項を付して提示し、翌二三日、同組合はこれを受諾して中央病院と右内容の協定を締結した。

右同日、中央病院は、支部組合に対し、病院組合と妥結調印したものと同一の回答を提示したが、支部組合はこれを拒み、その後、六月七日に至つて、妥結月実施条項を除き、賃金引上総額については同意する旨を中央病院に通知した。

(四) 右同日、右通知と併せて、支部組合は中央病院に対して、同年の夏期一時金につき、基本となる賃金の二・五か月分プラス二万円とする倍率方式で要求書を提出したが、翌八日、中央病院は、同組合に対し、右一時金要求は、新賃金によるものか、旧賃金によるものかを回答するよう求め、同日、同組合は現在の賃金交渉妥結の結果を算定基礎とするよう申し入れた。

これに対し、翌九日、中央病院は、「昭和五一年度賃上げ等について、現在病院と支部組合との間に妥結調印はされておりません。」、「夏期一時金要求額が不明確な基礎の上に立つているので、病院は前記昭和五一年度の賃上げ等に関し妥結調印後回答いたします。」との態度を打ち出したため、即日、支部組合は、「昭和五一年四月二三日付病院回答による賃金引上げ総額については同意します。」、「夏期一時金の算定基礎は新賃金をもつて算定するよう合せて申入れます。」と通知した。

翌一〇日、中央病院は、右申入に対し、賃上げ等に関し妥結調印後夏期一時金についての回答をするとの態度を変えず、賃上げについては、病院最終回答による妥結調印の外は、交渉する意思はない旨回答するとともに、六月一七日に団体交渉を行いたいとの申入をしたが、団体交渉は開催されず、その後三回にわたり同趣旨の申入が繰り返された。

他方、支部組合は、六月二六日付で「昭和五一年度賃金引上げ病院側協定案による応諾団交には応じられません。」、「組合では、病院側提示の賃金引上げ額についてはすでに同意をしています。」、「夏期一時金交渉についても昭和五一年六月七日付要求書にそつて交渉されるよう申し入れます。」と通知した。

その後九月に至るまで双方がそれぞれ数回同趣旨の申入を行つたが、結局、双方がその主張を繰り返すにとどまり、夏期一時金についての団体交渉が開かれることはなかつた。

この間、六月二五日、中央病院は、病院組合との間で年間賞与協定を締結し、七月七日、同組合員に対して夏期一時金を支給した。

(五) 右夏期一時金をめぐる中央病院と支部組合との交渉が何ら具体的な進展のないまま、一〇月二二日、支部組合は、中央病院に対し、昭和五一年の年末一時金につき基本となる賃金の三・五か月分プラス一律二万円との内容の倍率方式による要求をなしたが、中央病院は、同月三〇日付で「昭和五一年度年末一時金については昭和五一年賃上げが確定次第議題に入ります。」と夏期一時金の際と同様の回答をなし、その後、昭和五二年四月に至るまで支部組合は、数回にわたり右各一時金について団体交渉を申し入れ、中央病院も、夏期一時金の際と同旨の条件を示しつつ、数回団体交渉の申入をしたが、結局、夏期一時金の場合と同様の経過をたどつた。

他方、病院組合員及び非組合員に対しては、昭和五一年一二月四日、年末一時金の支払がなされた。また、支部組合を脱退した従業員に対しては、逐次、新賃金との差額及び右各一時金の支払がなされた。

(六) 昭和五二年四月五日に至り、中央病院と支部組合との間で右各一時金についての交渉がなされ、同月一五日、中央病院は支部組合に対し、右各一時金につき、賃金を基礎とする倍率方式によるのではなく、直接、具体的な要求金額そのものを表示する実額方式によつて要求することを示唆し、その検討を促したが翌一六日、支部組合は、これに応ずることなく、都労委に救済を申し立てた。

右申立後も同月二五日に団体交渉がなされ、さらに五月二日、中央病院は、夏期及び年末一時金につきその試算にかかる実額方式での回答を一括して協定書案としてまとめ、これを支部組合に提示した。右協定書案の内容は、中央病院と病院組合との間で妥結調印したのと同一の条件の下に、右各一時金について具体的な支給金額そのものを表示し、年末一時金については支給日現在在職者条項を付したものであつた。

しかしながら、支給日現在在職者条項にいう「支給日」は、病院組合の場合、昭和五一年一二月四日であつたが、支部組合の場合には昭和五二年五月二日以降となり、支部組合員であつて、右同日までに中央病院を退職していた小比類巻里子、小林渡、松島茂昌の三名が、右年末一時金の支給を受けられない虞があつたため、支部組合は右協定書案に同意せず、各一時金とも妥結をみるに至らなかつた。

2  不当労働行為の成否について

右1において認定した事実関係のもとにおいて、不当労働行為が成立するか否かにつき判断する。

前認定の事実によれば、中央病院は、原告済生会の支部の一施設として従業員の労働条件の決定等を行つていたものであるところ、昭和五一年六月七日に支部組合からなされた同年度の夏期一時金の要求に対して、その要求が未だ確定していなかつた同年度の新賃金を基礎とする倍率方式によつていた点をとらえ、要求額が不明確な基礎の上に立つているとして右新賃金について妥結調印した後に回答するとの態度をとり、その後一貫して右新賃金が確定しない限り夏期一時金について交渉する余地がないとして、新賃金の妥結調印を求める団体交渉の申入れを続けていた。そして、同年一〇月二二日、支部組合が同年度の年末一時金の要求を夏期一時金と同様に倍率方式によつて行つた際にも、同様の態度を示し、その後も引き続き各一時金の要求につき新賃金の妥結が交渉の前提問題となるとの姿勢を崩さなかつた。他方、支部組合は、このような新賃金の妥結を前提とする中央病院の申入れに係る団体交渉には応じられないとして、一時金の要求を直接の交渉事項とする団体交渉を開くよう要求していたが、双方がその主張を譲らなかつたため、結局一時金についての団体交渉は、昭和五二年四月五日に至るまで開催されなかつたものである。

ところで、前認定のとおり、支部組合は、夏期一時金の要求をするに当たつて、昭和五一年度の新賃金について妥結月実施条項を除き中央病院の提示した賃上額自体には同意する旨通知し、さらに、中央病院からの問い合せに対して、夏期一時金の算定基礎となる賃金は右の新賃金である旨回答している。そうすると、右回答がなされた時点においては、妥結月実施条項についての合意がないために新賃金が確定していなかつたとはいうものの、倍率方式によつて算定基礎となる賃金額は明らかにされていたのであるから、中央病院が支部組合の夏期一時金の要求額を把握することは可能であつたといわなければならない。このことは、年末一時金についても同様である。そして、一時金の要求は、賃金の確定を前提としなければならないわけのものではなく、たとえそれが倍率方式によつていたとしても、要求額が算出しうる限り、賃金とは別個に交渉の対象となり、額を提示することなどにより交渉が可能であつたはずである。しかるに、中央病院は、前記のとおり、新賃金の確定が一時金についての交渉の前提になるとしてその妥結調印に固執し、一時金の要求を直接の交渉事項とする団体交渉は開催しようとしなかつたのであつて、このような中央病院の態度は、支部組合において当初賃金交渉が額については妥結したかのような態度をとつていたことを考慮に入れても、なお妥当性を欠いていたものと評さざるを得ない。

そして、前認定の事実によれば、中央病院は、病院組合との間においては、昭和五一年六月二五日年間賞与協定を締結し、夏期一時金、年末一時金をそれぞれ七月、一二月に支給していたのであり、支部組合との間で一時金についての妥結が遅れ、支部組合員に対する支給時期が延びることは、支部組合に対し重大な影響を及ぼしかねない情況にあつたものと認めることができる。

右に認定、説示したところを総合すると、中央病院は、新賃金につき妥結がなされず、未確定であることを口実として、一時金に関する交渉、妥結を引き延ばし、支部組合員に対する一時金の支給を遅延させることにより、支部組合員を不利益に取り扱うと同時に、支部組合に対する支配介入を行つたものと解さざるを得ず、右行為は、原告済生会の行為として、労働組合法第七条第一号及び第三号に規定する不当労働行為に該当するものである。

原告済生会は、新賃金未確定の間に一時金について交渉するには実額方式による以外にないが、中央病院がこの方式を考えついたのは昭和五二年になつてからであるから、交渉のしようがなかつた旨主張し、前掲乙第一三二号証(証人加藤雄二の中労委審問調書)中にはこれにそう記録部分があり、証人黒田幸男も同趣旨の供述をしているが、右記載部分及び供述部分は、前掲乙第一一九号証(証人加藤雄二の都労委審問調書)に照して、信用することができないので、右主張は採用できない。

3  救済利益の欠缺の主張について

原告済生会は、支部組合の本件救済申立には救済の利益がないと主張するので検討する。

前記1(六)のとおり、中央病院が支部組合に対し、実額方式で要求するよう示唆し、さらにその旨の協定書案を提示したことは、これを認めることができる。

しかしながら、前記のとおり、本件においては、一時金要求について団体交渉を開始するにつき、新賃金が未確定であることは特に障害とはならなかつたのにもかかわらず、中央病院は、新賃金の妥結調印に固執し、一時金の要求を直接の交渉事項とする団体交渉を開こうとしなかつたのであるから、右の経緯に鑑みると、真実、右団体交渉を進展させようとするのであれば、実額方式による提案も支部組合において受諾可能な形のものでなければならなかつたといえる。ところで、中央病院の右実額方式による協定書案のうち年末一時金については、支給日現在在職者条項が付されていたが、右条項は、その形式においては病院組合に付されたものと同一であるものの、右両組合に対する実際の「支給日」の点では実質上相違し、仮に支部組合が右条項を受諾するならば、支部組合に所属していた三名が右年末一時金の支給を受けられない虞があつたことは、前認定のとおりである。したがつて、中央病院による実額方式による協定書案の提示も、前記のような経緯で交渉が延ばされていた状況下で右のような条項を付した点において、なお間然すべき点がないとはいい難く、支部組合が、中央病院から各一時金について一括して提案された右のような条項を含む協定案に応ずることができなかつたのも無理からぬものと認められる。

そうすると、中央病院が右のような形で実額方式を提案し、この方式による協定案を示したからといつてこれにより、既に行われた不当労働行為が払拭され、支部組合の救済の利益が喪失したものと言うことはできない。

4  裁量権の濫用の主張について

原告済生会の主張するところは、要するに、仮に不当労働行為であるとしても、協議命令をもつて十分にその回復が可能であり、本件命令は裁量権の範囲を逸脱したものであるというにある。

しかしながら、前記認定の事実によれば、中央病院は、自らの条件に固執して一時金についての団体交渉をなさず、長期間を経た後ようやく団体交渉に応じ、支給金額を実額で回答したものの、支給日現在在職者条項を付したため、依然として交渉は進展せず、このため、支部組合員が各一時金の支給を受けられない状態は、相当長期間に及んだのに対し、病院組合員に対する支給は、正常な時期に行われていたものである。これらの事実に照らすと、仮に、被告が協議命令を発したとしても、それによつて右一時金交渉が容易に妥結に至ることは期待し難いところであり、長期間に亘つて本件各一時金の支給を受けていない支部組合員の不利益は大きく、早急にこれを回復させるべき必要性があつたと認められる。右のような本件の事実関係のもとにおいては、労働委員会が、労使間の合意がないにもかかわらず本件各一時金の支払を命ずることは、その合理的な裁量権の範囲内にあるものとして肯認しうるところであり、憲法第一九条及び第二九条第一項にも牴触するものではなく、原告済生会の右主張は理由がない。

5  中央病院の被申立人適格及び二重命令の主張について

労働組合法第七条にいう「使用者」とは、労働契約の当事者となつて労働者を雇用する地位にある者を指し、救済命令は右の者を名宛人として発すべきものと解されるところ、本件命令の維持する初審命令は、独立の法人格を有しない支店の一施設たる中央病院を被申立人と表示し、これを命令の名宛人としている。この点において右命令は使用者に該当しない者を使用者として表示したものというべきであるが、このような救済命令も表示上の名宛人を支配する実質上の使用者を名宛人とし、表示上の名宛人をして命令に従わせるよう義務づける趣旨の命令と解するのが相当である。したがつて、初審命令の主文第一項は、表示上は中央病院を名宛人としているが、実質は原告済生会を名宛人として、中央病院をして一時金の支払をなさしめるよう義務づけた趣旨と解され、同第二項も同様に原告済生会に中央病院をして掲示を行わせるよう義務づけた趣旨と解される。ところで、右の主文第二項においては、中央病院のほか、原告済生会自身も名宛人とされているため、右のように中央病院に対する命令を原告済生会に対する命令と解すると、形式上同一法人に対し二個の命令がなされたものとみられる余地がないわけではないが、命じられている行為は独立した二個の行為ではなく、一個の行為であることが明らかであるから、単に一個の主文の中で同一名宛人が重複して記載される結果となつたに過ぎないものと解するのが相当である。したがつて、右主文第一、二項はいずれも違法と解すべきものではない。

右によれば、中央病院の被申立人適格及び二重命令についての原告済生会の主張は、理由がない。

第三結論

以上の次第で、原告病院の本件訴は不適法であるからこれを却下し、原告済生会の本件請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用(参加によつて生じた分を含む。)につき、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項但書及び第九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 桜井文夫 相良朋紀 須藤典明)

(別紙一)

命令書(再審)

(中労委昭和五二年(不再)第五八号 昭和五三年三月一五日 命令)

再審査申立人 社会福祉法人恩賜財団済生会 外一名

再審査被申立人 全済生会労働組合 外一名

主文

本件再審査申立てを棄却する。

理由

第一認定した事実

当委員会の認定した事実は、初審命令の理由第一認定した事実の2の(3)を次のとおり改める以外は、同命令書第一認定した事実と同一であるので、これを引用する。

「この命令に対して、病院および済生会から取消しの訴えが東京地方裁判所に提起され、同裁判所は、昭和五二年二月二二日上記命令主文第一項の履行を命ずる緊急命令を発し、病院は、同命令に従い同年三月三一日現在の在籍組合員に対し、本俸の差額分の支払いをした。

また、同年一二月二二日、同裁判所は、東京都地方労働委員会が昭和五一年四月一日からの賃金の引上げの実施とポスト・ノーテイスを命じたことはいずれも相当であるとして病院及び済生会の取消請求を棄却した。」

第二当委員会の判断

1 当事者適格について

申立人は、初審命令主文第二項の掲示の名義人が、済生会及び病院となつていることは、同一法人に対する二重命令として違法である。また、初審命令主文第二項の掲示の名宛人として、全済労と支部を掲げているが、本件救済申立内容は支部にかかる事項であり、全済労には関係がないから二重命令として違法であると主張する。

なるほど、本件の使用者は、財団法人たる済生会であり、病院は、その支部の施設であるが、病院は、済生会から従業員の採用及び労働条件の決定などについて、権限を任されており、その権限の範囲内の問題として、支部との団体交渉の拒否、昭和五一年夏期及び年末一時金の不払いが争われている本件にあつては、その救済の実効を確保するため、病院をも当事者に加えたことは二重の救済を命じたことにはならない。また、全済労は、前記第一の1の(1)認定のとおり、支部の加入する連合団体であるから、支部に対する本件病院の行為は、同時に全済労に対する行為でもあり、全済労としても、救済を申立てる資格を有するものと認められる。

したがつて、申立人の主張はいずれも採用できない。

2 一時金不払いについて

病院は、支部組合員に対して、昭和五一年夏期及び年末一時金を支払わなかつたことは不当労働行為に該当するとした初審判断を争うので、以下判断する。

病院は、支部組合員に対し、昭和五一年夏期及び年末一時金を支払わないのは、新賃金が合意確定していないため、支部の新賃金を算定基礎とした一時金の要求では交渉のしようがないからであつて、一時金の支払いを拒否したのではないと主張する。

しかしながら、新賃金が決まつていなくても、昭和五一年夏期及び年末一時金の性質上、病院として、なんらかの回答ができるはずのものであるのに、新賃金が決まつていないことを理由に、回答も団体交渉もできないという病院の主張は首肯できない。

しかも、新賃金に関しては、妥結月実施条項を除き、賃上げ額そのものは、支部も受諾しており、他方、新労に対しては、新賃金はもとより、昭和五一年夏期及び年末一時金も支払われている事情からすれば、本件病院の措置は、結局、新賃金の未妥結を口実に、昭和五一年夏期及び年末一時金の交渉を拒否し、一時金を支払わないことによつて、支部組合員を不利益に扱い、もつて、支部の弱体化を図つたものというほかなく、これを労働組合法第七条第一号及び第三号に該当するとした初審判断は相当である。

以上のとおり、本件再審査申立てには理由がない。

よつて、労働組合法第二五条、同第二七条及び労働委員会規則第五五条を適用して主文のとおり命令する。

(別紙二)

命令書(初審)

(東京都労委昭和五三年(不)第二九号 昭和五二年八月二日 命令)

申立人 全済生会労働組合 外一名

被申立人 社会福祉法人恩賜財団済生会 外一名

主文

1 被申立人社会福祉法人恩賜財団済生会支部東京都済生会中央病院は、申立人全済生会労働組合中央病院支部所属の組合員に対し、昭和五一年夏期および年末一時金を他従業員と同様の条件で支払わなければならない。

2 被申立人社会福祉法人恩賜財団済生会および被申立人病院は、本命令書受領後一週間以内に、五五センチメートル×八〇センチメートル(新聞紙二頁分)の白紙に、下記のとおり明瞭に墨書して、被申立人病院の従業員の見易い場所に、一〇日間掲示しなければならない。

昭和  年  月  日

全済生会労働組合

中央執行委員長 口羽素臣殿

全済生会労働組合中央病院支部

委員長 金子有之殿

社会福祉法人恩賜財団済生会

代表理事 犬丸実

社会福祉法人恩賜財団済生会支部

東京都済生会中央病院

院長 堀内光

当病院が、貴組合員に対して、昭和五一年夏期および年末一時金を支給しないことは不当労働行為であると、東京都地方労働委員会で認定されました。今後は、同種の行為はいたしません。

この掲示は、同地方労働委員会の命令によつて行なうものであります。

(注、年月日は文書を掲示した日を記載すること)

3 被申立人は、前各項を履行したときは、すみやかに当委員会に文書で報告しなければならない。

理由

第一認定した事実

1 当事者等

(1) 申立人全済生会労働組合は、被申立人社会福祉法人恩賜財団済生会の経営する施設の従業員が組織する二八の労働組合を以て構成する連合体たる労働組合であり、申立人全済生会労働組合中央病院支部(以下「支部」という。)は、被申立人病院およびその付属施設の従業員約六〇名(本件結審時)が組織する労働組合である。

(2) 被申立人社会福祉法人恩賜財団済生会(以下「済生会」という。)は、医療施設等を設置して社会福祉事業を行なうことを目的とし、全国各地に支部をおいて事業経営を分担せしめ、これら各支部の運営事業について、企画・指導・連絡の任に当つている。被申立人社会福祉法人恩賜財団済生会支部東京都済生会中央病院(以下「病院」という。)は、済生会の一支部である東京都済生会が経営する病院であり、独立の事業体であつて、その責任において従業員約五三〇名を雇用しているものである。

(3) なお、病院の従業員で支部に属さない約二六〇名は、申立外済生会中央病院労働組合(以下「新労」という。)を組織している。

2 都労委昭和五一年不第八一号事件の経過(本件申立ての前提になる事実)

(1) 昭和五一年度賃金引上交渉において、病院は支部および新労に対し、賃上げ額等とともに実施時期を妥結月とすることを回答し、これらを一括かつ全面的に受諾することをもつて妥結の条件とし、これを固持した。

新労は昭和五一年四月二三日上記病院回答を受諾したので、病院は、六月七日、同組合員に対し四月一日からの賃上げ差額を支払い、新賃金を実施した。他方同じく六月七日、支部は病院に対し、上記病院回答による賃上げ額を承認する旨答えたが、妥結月実施条項を受諾せず、四月一日からの実施を申入れたところ、病院は翌八日、この支部回答は、病院回答を受諾したものではないから、賃上げ額についての合意が成立したとは認められないと回答し、あくまで病院回答を無条件に受諾することを要求した。しかし支部がこれに応じなかつたので、病院は賃上げ交渉は未だ妥結していないとして、支部組合員に対して賃上げを実施しなかつた。

(2) 支部は、七月一三日、病院を被申立人とし、当委員会に対して、支部組合員に対し、昭和五一年度賃上げを四月一日に遡つて実施し他従業員と同様の取扱いをすることなどの救済を求める申立てをした(都労委昭和五一年不第八一号)。

当委員会は、前記申立てに対し「病院が一方的に妥結月実施の条件を付し、かつこれに固執する行為、態度は支部の自主的運営に介入し、結果的に新労組合員らとの間に差別を来たし、支部並びにその組合員に精神的並びに経済的動揺を与え、支部の弱体化を招く行為であるといわざるを得ない」と判断して、一一月一六日、「病院は、支部所属の組合員に対し、昭和五一年度賃金引上げを昭和五一年四月一日に遡つて実施しなければならない(主文第一項)、(第二項ないし第三項略)」との救済命令を発した。

(3) この命令に対して、病院および済生会から取消の訴が提起され、同事件は東京地方裁判所に係属中である。同裁判所は、昭和五二年二月二二日、前記命令主文第一項の履行を命ずる緊急命令を発し、病院は、これに従い同年三月三一日現在の在籍支部組合員に対し、本俸の差額分の支払いをした。

3 昭和五一年夏期および年末一時金の不払い(本件申立てにかかる事実)

(1) 昭和五一年六月七日、支部は病院に対し、新賃金を算定基礎とした夏期一時金の要求書を提出したが、病院はこれに対し、同月九日、「昭和五一年度賃上げ等について、現在病院と支部組合との間に妥結調印はされておりません。……夏期一時金要求額が不明確な基礎の上に立つているので、病院は前記昭和五一年度の賃上げ等に関し妥結調印後回答いたします」と答えた。そして病院は支部に対し、昭和五一年度賃上げについて病院回答どおり速かに妥結し、夏期一時金に関する団体交渉を行ないたい旨を申入れ、他方支部は病院に対し、前記六月七日付要求書にそつた交渉を申入れた。しかし前記2(1)に認定したとおり賃上げ交渉が妥結しなかつたので、夏期一時金についての団体交渉は行なわれず、結局、病院は支部組合員に対し夏期一時金を支給しなかつた。

(2) 他方、六月二五日、病院は新労との間で年間賞与協定を締結し、同組合員および同協定に同意する旨の念書を提出した非組合員に対しては、七月七日、夏期一時金を支給した。

(3) 一〇月二二日、支部は病院に対し、年末一時金の要求書を提出したが、一〇月三〇日、病院は支部に対し、昭和五一年度賃上げが確定次第議題に入ると回答し、その後は夏期一時金の際と同様の経過をたどり、結局病院は支部組合員に対して、年末一時金を支給せず、新労組合員および非組合員に対しては、一二月四日、年間協定に基づく年末一時金を支給した。

(4) 昭和五二年三月一日、支部は病院に対し、前記二月二二日付緊急命令により、昭和五一年度賃金引上げは確定したとして、これを基礎にして昭和五一年夏期および年末一時金の回答をするように求めたが、病院は、昭和五一年度賃金引上げについて病院回答による妥結調印およびそれに基づく同年度一時金に関する団体交渉申入れをもつて応えるのみであつた。

(5) 他方、病院は、支部を脱退した従業員に対しては、賃上げを実施し、それを基礎として昭和五一年夏期および年末一時金を支給した。その間支部からの脱退者は昭和五一年夏期一時金支給時以降一九名、同年末一時金支給時以降三二名にのぼつた。

(6) なお、病院は、支部に対し、昭和五二年度賃上げについては、昭和五一年度賃上げが未解決であるとして、新労組合員の賃上率に見合う実額で妥結月実施条項を付して回答し、同年夏期一時金も同様実額で回答したところ、支部はこれを受諾していずれも妥結し、支給されている。

また本件申立て後、病院は支部に対し、昭和五一年年末一時金につき、支給日在籍者に限り実額で支給したい旨を提案したが、支部は退職した元同組合員が除外されることを理由に、これを拒否した。

(7) 以上のとおり、本件結審時に至つても、病院は支部組合員に対し、昭和五一年夏期および年末一時金を支給していない。

第二判断

1 申立ての却下を求める主張について

(1) 被申立人は、本件申立ては昭和五一年度賃上げをめぐる問題で、昭和五一年不第八一号事件と二重申立てになるとして却下を求める。しかし、本件申立ては昭和五一年夏期および年末一時金の支給を求めるもので、他方昭和五一年不第八一号事件は昭和五一年度賃上げの実施を求めたものであり、両者は別個の事件であるから、被申立人の却下の主張は失当である。

(2) また、被申立人は、病院は単に済生会の一施設に過ぎず、被申立人たる能力をもたないとして却下を求める。しかし、病院は独立の事業体であり、その責任において従業員を雇用しているものであるから、労使関係の一方当事者であることは明らかであり、被申立人の却下の主張は失当である。

2 一時金不払について

(1) 申立人は、本件一時金不払は、支部組合員を新労組合員および非組合員に比して不利益に取扱うもので、支部の団結にひびを入れさせ、その壊滅を企図してなされたものであると主張して、一時金を他の従業員と同様の条件にて支払うことを求め、被申立人は、昭和五一年度の賃上げが妥結していないから、一時金の確定は不可能であり、申立人の要求は前提条件を欠くと主張して、申立ての棄却を求める。

(2) 前記当委員会の救済命令は、病院が妥結月実施条項に固執し、支部がそれを受諾しないことを理由に、病院が合意の成立を否認して、支部組合員に賃上げを実施しないことを不当労働行為と認定し、支部組合員に対し昭和五一年四月一日に遡つて新労組合員等と同様に賃上げを実施することなどを命じたものである。そしてこの命令に対して取消の訴が提起されているけれども、同命令は取消がなされるまでは効力を有し、さらに同命令についての緊急命令も発せられていることからして、申立人の要求が前提条件を欠くとの被申立人の主張は採用できない。なるほど、夏期および年末一時金の額が基準賃金の倍率を基礎とする限りは、前記救済命令書の交付日である昭和五一年一一月三〇日以前の時点においては、前記一時金の正確な算出をすることは不可能であつたと思われる。しかし、その後救済命令が発せられ、賃上げの合意を不成立にさせていることが病院側の不当労働行為であると認定された以上、病院が賃上げの妥結を自ら不成立にさせておきながら、これを理由として一時金の支払いを拒否することは、甚だしく労使間の信義に反するといわねばならない。もちろん、救済命令及び緊急命令は労使間の合意を擬制するものではないけれども、その命令の定める算定基礎に従つて一時金の金額を算出することは十分可能であり、病院は支部から昭和五一年夏期および年末一時金の支給について申入れを受けたときは、新賃金に基づいて前記一時金を支給しなければならないことは当然である。

本件一時金不払いは、一時金の支給時期以後大量の支部からの脱退者をみていることから推して考えると、支部組合員に対し支部にとどまつている限り一時金の支給を受けられず、支部にとどまつていることは不得策であるとの感を抱かせ、もつて組合員の支部からの離反を狙つたものとみるの他なく、これが支部に対する支配介入であり、支部組合員に対する不利益取扱いであることは明らかである。

第三法律上の根拠

以上の次第であるから、本件一時金不払いは労働組合法第七条第一号および第三号に該当する。

よつて、労働組合法第二七条および労働委員会規則第四三条を適用して主文のとおり命令する。

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